大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(う)2307号 判決

被告人 小島達夫

〔抄 録〕

よつて按ずるに、いわゆる盗難に関する被害届というものは、通常は盗難品の所有者ないし占有者において盗難のあつたことを報告する目的をもつて作成した供述書である場合が多いであろうが、しかし所有者ないし占有者でない被告人以外の第三者が、盗難のあつたことを自ら認知した場合において、その旨の報告をする目的をもつて作成した供述書は、盗難品の所有者ないし占有者が自ら作成した被害届と等しく刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号に該当する証拠書類であると認むべきで、これに盗難に関する被害届という名称を付すると否とは、その証拠能力には何らかかわりがないというべきである。而して記録によると、本件は被告人においてトランジスターラジオと二千二百円在中の財布の窃取の公訴事実について罪責があることを認めたため、簡易公判手続によつて審理され、その手続において検察官から所論のごとき被害届の証拠調の申請があつたのであるが、それは岩淵よしの名義で作成されており、その内容として同人がその所有のトランジスターラジオを盗まれたということとそれと同時に同人の雇人山川アサノも右財布を盗まれたことを届出人である右岩淵において自ら認知した趣旨の記載が存することが認められるのであつて、かかる書類は右山川アサノの盗難被害に関する部分についても、これを刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号所定の証拠書類であると認めるに妨げがないことは前段説明のとおりであるところ、簡易公判手続においては、刑事訴訟法第三百二十一条ないし第三百二十八条にわたる伝聞証拠の制限は解除されるのみならず(同法第三百二十条第一項)、被告人及びその弁護人において右被害届を証拠とすることについては、何ら異議がなかつたことも記録上明らかであるから、原審がこれについて適法な証拠調をした上、被告人の自白を補強する証拠として罪証に供したことは何ら違法の措置ではないといわなければならないし、固より記録中の他の証拠に徴すれば、右山川アサノの盗難については全く疑う余地がないから、右被害届を罪証に供することが許されないとする所論は理由がないといわなければならない。また、仮りに、右被害届中山中アサノの被害に関する部分は岩淵よしの自ら認知した事実に関する供述ではなく、山中アサノから被害事実を聞知し、その旨を記述したいわゆる伝聞にかかる供述に過ぎないとしても、簡易公判手続においては前記のとおり伝聞証拠の制限は解除されているのであるから、前記のとおり適法な証拠調を経た右被害届を罪証に供することは何ら違法ではないのである。これに要するに、本件において右被害届を補強証拠に供することは許されず、原判決には刑事訴訟法第三百十九条の違反があるとする論旨は理由がない。

(三宅 東 井波)

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